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東京高等裁判所 昭和51年(ネ)2723号 判決

控訴人 塚本アキ

〈ほか二名〉

右三名訴訟代理人弁護士 高橋孝信

被控訴人 寺内正洋

右訴訟代理人弁護士 久保利英明

主文

一、本件各控訴を棄却する。

二、控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

控訴人らは、「原判決を取消す。被控訴人は、控訴人塚本アキに対し金三四三万八、四六二円及び内金二八三万八、四六二円に対する昭和四九年一二月一三日から右支払済まで年五分の割合による金員を、控訴人芝本玉栄、同大塚宮子に対しそれぞれ金一八九万二、三〇八円及びこれに対する昭和四九年一二月一三日から右支払済にいたるまで同割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決並びに右金員の支払を求める部分につき仮執行の宣言を求め、被控訴人は「本件各控訴を棄却する。」との判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張及び証拠関係は左記の通り訂正、付加するほかは原判決の事実欄に記載されているとおりであるから、これをここに引用する。

(訂正)

原判決三丁表最初の行から二行目にかけて「次男亡塚本貞次がおり、嫡出子、大田浩次、大田アヤ子(いずれも養子縁組によって改姓)」とあるのを、「次男亡塚本貞次、(その嫡出子は大田浩次、大田アヤ子、いずれも養子縁組によって改姓)」と訂正する。

原判決五丁裏終りから四行目に「甲第四」とあるのを、「甲第四号証の一ないし六」と訂正する。

(控訴人らが付加した主張)

本件事故は被控訴人の前方不注視、速度違反の過失によって惹起されたものであるが、これを詳述すれば次のとおりである。

本件衝突のあった道路(国道二〇号線、通称八王子バイパス)は、本件衝突地点附近において前方見通しが一〇〇メートルは可能な状態であり、その照明度は、本件事故当時三~四〇メートル手前で同道路上に人がいることを識別しうるものであった。

このことは、本件衝突の直前、被控訴人車が追い抜いた併進車の運転者花岡淳夫が亡塚本栄造が右地点にいることに気づいていること、同道路上を同地点に近づきつつあった対向車の運転者宮崎英男が同道路上の栄造に気づき、危険を感じ、ライトで被控訴人に合図していることからみても明らかである。

しかるに、被控訴人は同地点の手前一一・四〇メートルのところに接近しても栄造を水溜りと思いこむほどに前方注視を怠っていたものである。

また、被控訴人車は同地点附近の制限最高速度毎時五〇キロメートルを超え、毎時八~九〇キロメートル程度で走行したため、同道路上の障害物の発見が容易でなく何かがあると思った瞬間に栄造に乗上げてしまったのであり、若し毎時四~五〇キロメートルの速度で走行していたのなら、同人をその直前で発見してもハンドル操作により本件事故を回避しえたはずである。

本件事故についての栄造の過失割合は原審で主張したとおりであるが、これは多めにみても三〇パーセントまでである。

(被控訴人が付加した主張)

控訴人らの右主張は否認する。本件事故当時衝突地点の三~四〇メートル手前で右地点で横臥している人を発見することは困難であり、控訴人主張の併進車及び対行車の運転者も前方路上の物体が人であることを確認していない。被控訴人は前方注視を怠ったものではなく、路上に横臥している栄造を水溜りかシートと思ってそのまま直進し、栄造を轢過する結果となったのは、横断禁止の本件道路上に深夜人が横臥しているという突飛なことは想像すらできなかったからである。また、右の状況のもとでは、ハンドル操作により本件事故を回避する余地はなく、被控訴人車がスピードを出し過ぎて本件事故が生じたものでもない。かりに、被控訴人に前方不注視の過失があるとしても、その程度は栄造の過失に比して軽微であることは原審で述べたとおりである。

(当審における新たな証拠関係)《省略》

理由

本件につき更に審究した結果、当裁判所も控訴人らの本訴請求を棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり訂正、附加するほか原判決の理由と同じであり、当審において新たに援用された証拠を参酌しても原審の認定は左右されないので、右の原判決の理由をここに引用する。

(訂正)

原判決七丁表終りから五行目に「合計額」とある次に、「(但し、控訴人塚本アキの弁護費用支出による損害を除く)」を挿入し、同七丁裏初めから五行目から六行目にかけて「原告アキの弁護士費用の請求は是認することはできない。」とあるのを、「控訴人塚本アキの弁護士費用の支払による損害の主張については、右主張にかかる損害を除くと、本件において認容すべきものがないこと、本件における過失割合の程度、態様等を勘案するとき、右費用の出捐を本件事故と相当因果関係にある損害とは認め難く、右主張は採用しえない。」と訂正する。

(控訴人ら及び被控訴人が付加した主張に対する判断)

《証拠省略》によると、本件事故のあった道路は国道二〇号線、通称八王子バイパスであって、本件事故地点附近において、見通しがよく昼間ならば同道路上前方見通しが少くとも一〇〇メートル可能な状態であり、その制限最高速度は五〇キロメートル毎時であること、同地点附近の照明度については、夜間において、原審認定のとおりの水銀灯が設置されているので、同道路上を西から東に進行して同地点に接近し、同地点に人間が横臥している場合、よく注意して前方を視れば、同地点手前約九〇メートルのところで同地点に何か物体が存在することを認識でき、同地点の手前三~四〇メートルのところで右物体が人間であると識別できる程度の照明度であったこと、しかし同道路は前記のような国道であって、同地点附近の横断は禁止されており、深夜人が同道路上に横臥することは通常ありえないことであったため、本件事故当時、被控訴人車を運転し本件道路上を西から東に向って毎時約五〇キロメートルの速度で同地点に接近していた被控訴人は、同道路の車道上であり、かつ、被控訴人車の車線上の同地点に泥酔のうえ横臥していた茶色の背広着用の亡塚本栄造に、同地点の手前三~四〇メートルのところに接近するまで気づかず、同所で被控訴人は前方の自己車線内に何か黒い影のようなものがあることに気づいたが、これを水溜りか自動車のシート類であろうと考えそのまま進行を続けたため、同人を轢過してしまい、同人を死亡させるにいたった、以上のとおり認定することができ、これを覆えすに足りる証拠はなく、右の認定によれば、被控訴人に前方注視義務違反の過失があったというべきであるが、被控訴人に速度違反があったとは認めがたく、被控訴人の右の過失と栄造の二重の重大な過失、すなわち、泥酔のうえ深夜横断禁止の道路に立入り、しかも同道路車道上に横臥していた過失、その他諸般の事情に鑑みるとき、本件事故についての栄造の過失割合は七〇%であると認めるのが相当である。

以上の次第で、控訴人らの本訴請求は理由がなく、これを棄却した原判決は相当であって本件各控訴は理由がない。

よって、民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条、第九三条第一項本文に従い主文のとおり判決する。

(裁判長判事 外山四郎 判事 海老塚和衛 鬼頭季郎)

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